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くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

新しいムーブメントとは、他人や環境に惑わされないこと【あなたが世界のためにできるたったひとつのこと】

     世界のためにできる、なんて出だしからして、なかなか一般人からは受け入れ難いタイトルではある。

 

 

    実際結論を先に言ってしまえば、大事なことを説いてはいるものの、中身はかなり極端な事例ばかりだし、何より「たったひとつのこと」であること(利他主義になる具体的な方法?)が、的を絞って書かれていない。悪本とは言わないが、こう言った内容の本に扇動されて自らの生活基盤や態度を考え直してしまうのは、得策ではないしむしろそれこそ問題を真正面から見ていない姿勢そのものだと言える。

    書かれているその極端なこととは、非常に質素な生活を暗に勧めたり、4500万ドル寄付した大富豪の例を出したり、と、そんな感じだ。もちろん世界の先進国の人間が皆そうできるわけではないし、ましてや日本では、「世界や社会のことよりも、身の回りのことを考えよう」という社会規範が強い国なので、この本に書かれてある内容は殊更行動に移しにくい。
    とは言え、学ぶべき部分もいくつかはある。
    先進国の中でも日本という国では「自分だけでなく、他人や社会全体が今より良くなれば」と思う人は少なくないだろう。実際、日本は他国への援助額やチャリティーの規模は世界でもトップクラスであるし、決して他人や他国に対して無関心な国ではないのだ。
    だが、それでもこの本は、世界の小口の寄付者に対して、こう指摘する。


「実際に、チャリティー団体にお金を寄付する人間は多いが、それがどのように使われるか詳しく調べる人間は少ない」
「寄付されたお金がどのように使われるかを詳しく知ると、寄付の額が減る」


    そして、一番効果のあるチャリティーの一つとして、「チャリティー活動を調査する」ことを挙げている。
    例えば、実際私達が小口のお金を寄付しようとするとき、寄付収入のうち、慈善活動費の割合が低い団体より高い団体に寄付しよう、と、一見思ってしまいがちだが、実際、慈善活動費以外にもチャリティー団体は管理費や次の寄付活動費に充てる必要もあるため、一概には言えないのだ。自分の寄付金が正しく使われるかどうか、という視点だと、どうしても目先のことばかり気にして、本質的な部分にたどり着くことが難しくなることも少なくないし、行動に移さない(移せない)ひともまた多い。
    実際、私はNPOに所属していたことがあったが、寄付金を慈善活動費に多く充当させていたために経営困難に陥り、寄付金ばかりかこれまで受けてきた税金という名の助成金まで水泡に帰してしまうNPO団体を知っている。
    他にも、フィクションだが社会風刺アニメとして名高い「サウスパーク」では、舞台になっている場所の市長が、慈善活動に“直接”参加するという話が持ち上がったときに「忙しいから」という理由で一蹴したシーンがある。
    早い話、大口の寄付者はチャリティー先をきちんと調べるものの、絶対数が少ないし、小口の寄付者は数は多いが善行が正常に形となって機能していないケースが多々あるのだ。


     そんな中、本書では、多くの指標や考え方を示してくれてはいるが、本の内容ではなく、一番覚えておきたいと個人的に思ったことは、こうだ。
    最も危険かつ無為な行動は、このような内容で扇動されて、思考停止に陥ることだ。

    繰り返すが、本書の言う通りにする(または、読んだ後に完全に無視する)のが悪いというのではなく、肝要なのは自分が考えた末に行動すること、というところにあるのだ。

 

    本書が与えてくれるのは、世界や社会のためになりたい、と思う人のためのヒントに過ぎず、あなたの立場がどうであれ、実際にこの本の通りに行動してしまえば、それこそ本末転倒である。
    本書の内容そのものにとどまらない、他人や環境に惑わされたりしないことも大事なことだと、逆説的に知る、良いきっかけになった。