くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

最高にカッコよくて痛快な天才ヒロイン!【国を救った数学少女】

   世界的ベストセラー【窓から逃げた100歳老人】に続く小説。

    それにしても、はっきり言ってしまって悪いとは思うのだが、アフリカという舞台から物語が始まると聞いただけで、良くも悪くもスリリングもしくはブラックな展開を期待してしまうのは何故なのだろう。

【国を救った数学少女】《ヨナス・ヨナソン著》

 

国を救った数学少女

国を救った数学少女

 

 



    数学好きの私としては、数学や論理的な展開が繰り広げられていろんなドタバタ劇(前作【窓から逃げた100歳老人】から本作がドタバタコメディ小説であろうことは最初からわかっていた)が始まるのかと期待していたのだが、題意に反して数学的要素は少なかったのは残念だった。逆に言えば数学にアレルギーがある人でも全く関係なしに楽しく読めるということだが、そういう人はタイトルだけで敬遠してしまうだろうし……。
    しかしそんなことは御構い無しに、本書はメガトン級コメディのコピーの名に恥じず、非常に笑えて楽しめる小説だ。前作よりセリフまわしやニューロイックな表現も大幅にパワーアップしている。

    本書の前半部分を読んで、何となく既視感があるな、と思って、しばらく読み進めていく内に気がついた。
「ああ、そうだ。筒井康隆の『アフリカの爆弾』だ」
    舞台、国ごとの観念、息苦しい制度、処理に困る爆弾、そしてそれら全部ひっくるめてブラックユーモアにしてしまっているところ。しかし、単にこの小説をブッ飛んだブラックユーモアとして片付けてしまうのはあまりにも惜しい。毒笑的な要素に留まらず、世界全体にケンカ売ってるのかと思えるくらいにストーリーの構成そのものも理不尽なまでにブッ飛んだ思考で書かれているんじゃないか、としか思えないからだ。
    実際のストーリーは、あらすじすらどうやって説明すればいいのか困るくらいに破茶滅茶かつ突っ込みどころ満載なので纏めるのが難しいが、一言で言うと

数十年に渡る世界各国の史実と共に、ヒロインと危険な原子爆弾(と、ある意味爆弾よりも危険な登場人物達)が絶えずどよめき続ける。

    ……しかし、読み終わった後には、「世界や歴史に対するあらゆるものの皮肉を形にして書いたものでもある」と解釈してしまえば「現実世界でも似たようなことの繰り返しだな」と妙に納得してしまえる力も、この作品は併せ持っている。その点においてもまた、前作よりわかりやすくなっている。

    だいたい〈南アフリカ出身のヒロインがヨハネスブルクで劣悪な環境で働かされているところから始まる〉ストーリーなど、それだけでも十分シリアスで重苦しい展開になりそうなのに、何故か徹頭徹尾笑える作品になっているから恐ろしい。そればかりか、本作はこれでもかというくらいヒロインに不都合な現実ばかり突きつける。周りにいる連中(他の登場人物は9割方バカか無能か犯罪者)に振り回され、そんな奴らと一緒に何年も働かされたり、スウェーデンに飛ぶ際も原子爆弾が一緒について回ったり、ボーイフレンドができても周りにはウザいやつらが蔓延ったり……とにかく安穏とした生活が訪れない。

    それでも、このヒロインはとにかく、可愛いしカッコいい。

    どんな時でも現実を受け止めて生きているし、冷静に物事を判断する。ニヒリズムに徹する訳でもなく、ちゃんと文化的な人間らしい面もある。過酷な出自や運命にこれだけ翻弄されて、どうしてここまで天才的かつカッコ可愛くいられるのかは謎だが、そこはおそらく著者によるせめてものヒューマニズムの表れなのだろう。
    先述の通り、史実や世界制度、権力者の横暴さと合理性の合致に妙に説得力がある点も小憎らしい。ひとつ間違えれば、国や世界が大変なことになる、という展開を常に念頭に置きながらも、ヒロインと一部の登場人物以外は好き勝手やる……それでもヒロインはめげないし、生き続ける。そんなひたむきなところも含めて、この作品の魅力だ。

     最後に、ヒロインの終盤のセリフをもって、締めさせていただきます。


「あたしたち自身の幸せを大事にするの。おバカたちは、自分たちで心配させておけばいいのよ」