くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

2つの時代が交錯する、正統派ファンタジーノベル【レムリアの女神】

    文庫本でないファンタジー小説を読むのは、実に桝田省治氏の【ハルカ 天空の邪馬台国】以来だった。ただあちらはあちらでーーすごく楽しかったけれどーー精神的にドギツイ部分も結構あったので、たまに落ち着いた感じの空想にふけってみたい時もある。
    今回読了した大橋崇行氏の【レムリアの女神】は、滅びた後の現実世界をモチーフにした、王道の異世界SFファンタジーだ。

 

レムリアの女神

レムリアの女神

 

 

    主な舞台は、旧人類がヨーロッパと呼んでいた地域の街並みを模した博物館のあるオーストラフ市と、人口250万人に及ぶ世界最大の都市国家、もう一方の章にも深く関係しているレムリア王国、その他。

    N.V.(ニルヴァーナ歴)と呼ばれる元号が物語の時代を現しており、それぞれN.V.歴651年と、148年の二つの時代が交互に進みながら、ストーリーが折り重なり、それぞれ二人の主人公とヒロインが登場する。
    博物館が舞台なだけあって、651年の章の主人公リョウイチ・カミムラ(リョウ)は大学生で、学芸員の見習いアルバイトをしている。ヒロインのヴィーナは、社交界にも名を馳せる劇団「ヴィクトリア座」の人気女優。とある悲しい過去を背負う彼女だが、2人はまるで兄妹のような仲で、屈託のない日を過ごしていた。

    ある日、「レムリア新王国」の王室画家であったナタルによる手記の翻訳に着手したリョウは、博物館の展示室の中で、レムリアの王族だけが持つことを許された緑水晶について語るヴィーナと、それに反応するかの如く光輝く水晶を見て、ヴィーナがレムリア王族の末裔ではないかと思い始める。

    もう一つの、N.V148年の章では、王室画家として雇われ、レムリア新王国にやってきたマハー出身のナタル・アルミラーノ(ナタル)と、レムリア新王国の王女サラス・レムリア(サラス)。王室に招かれたナタルは、王女と身分の違いこそあれど、親しげに近づいてくるナタルと共に画家としての生活を送る。ある日、幽霊の塔がある北の街へ絵を描きに出かけた2人は、塔の中でリウ・ミンファという主であり幽霊と名乗る女性に出会う。地下まで続く階段、その先の部屋に横たわっていた、殺されたばかりの若い女性の死体。何故こんなところで人死にが? 何故殺人事件が幽霊塔で? 事件の真相を探っていくうちに2人は……

 

    哲学のある意義、旧人類の行く末、財産に対する信奉、耽美で甘いキャラクターの言動、サスペンス、王政や教会の陰謀、など、ファンタジーとしてはお約束の要素がしっかり詰まっていて、読むものをほんの少しだけ、しかし継続させながらワクワクさせてくれる。それだけに、中盤以降の展開やラストの真相、ヒロインの正体など、斬新性が少し薄すぎてワクワク感が損なわれてしまっていたとも言えるが、逆に言えば超展開やご都合主義にまみれずに、安定した面白さでストーリーが進んでいく。たまに起こるハプニングや、女性キャラに露骨過ぎない程度に振り回されるセリフなど、良い意味でやきもきさせられる部分もあって見てて飽きない。
     どちらかというと、ハインラインアーサー・C・クラークのようなハードなSFものではなく、ルグウィンのような社会学や人間の心理などに重きを置いたテーマになっていて、難解な単語などもあまり出ず、出たとしてもちゃんと脈絡に沿って読めるようになっていて、そういった意味でも正統派を貫いている。

 

    最近、いろんな種類の異世界ものやラノベ、あまりにも非現実的過ぎる作品ばかりが世に出回っていて食傷気味だな、というような方でも安心して読める。あっと驚くような部分こそないものの、肩の力を抜いてリラックスしつつ、こういった子供時代に読み漁った形のスタンダードなファンタジーにもう一度触れてみるのもまた楽しい。