くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

【すべてがEになる】理系ミステリィ作家エッセイ【森博嗣】

    本書は、【すべてがFになる】【スカイ・クロラ】などで御馴染みの「理系ミステリィ」作家で有名な森博嗣氏が、インターネット上のホームページで公開している日記を本にしたもので、1998年の1月1日から12月31日までの毎日の出来事を、エッセイ調にして編集された本である。

 

すべてがEになる I Say Essay Everyday

すべてがEになる I Say Essay Everyday

 

 

    文書フォーマットは理系の作者らしく横書きで、ひと月ごとの章立てになっていて、それぞれの冒頭と表紙には、「天才柳沢教授」などの作品で知られている山下和美氏のイラスト及び漫画が掲載されている。そして、その漫画では柳沢教授が作者の森博嗣氏と会話をしたり、夢の世界へと紛れ込んだりするといった内容で、この作品の摩訶不思議さを深めている。その上、少し難解な文章に対する訳注や、編集者とのやり取りや、HPに載せた写真などもあって、単なる公開日記をまとめたものを超えて、内容的には盛りだくさんだ。

    今でこそ、ブログやホームページの日記をまとめた本やコミックエッセイなどは非常に多く出回っているが、本書は1990年代、つまりパソコンが一般家庭に今ほどには普及していない時期に書かれたものである。それでいてこれだけ内容が充実している著者のホームページ発祥のエッセイ本を出せていたというのは、文章の面白さと併せて二度びっくりした。また、著者がN大学の助教授だった頃と、作家業、特に「S&Mシリーズ」を執筆していた時期の森博嗣氏の様子も見られて、ファンにとっても非常に嬉しい一冊だ。
    文章は、著者が理系に携わる身であったり少しマニアックな趣味を持っているのでそういった用語がちょくちょく出てくるが、全体的に読みやすく、脚注や編集者の解説(森氏との質疑応答?)もあるので、万人にも受け入れられやすく、分量とは裏腹にぐいぐい読めるエッセイになっている。
     内容も、多趣味で国家公務員で作家という著者の生活や考え、世間へのメッセージなんかも含まれていてとても面白い。他のミステリー作品の話や出張の話、プライベートまで余すところなく日常を書いている。
挿絵や漫画も質が良い。山下和美氏の描く何となくゆるい感じの柳沢教授と森博嗣氏の会話が面白いし、あと奥様のささきすばる氏が可愛い。本書のように文章中心でももちろん面白いが、吾妻ひでお氏のコミックエッセイよろしく、全面的に漫画形式で書かれたとしたら、それはそれでまた非常に奥深いエンターテイメントになっていたことだろう。

 

    この作品には続きがあるらしく、そちらも手に取って読んでみようと思う。他人、特に有名作家の書くエッセイ(随筆)というものは、更級日記徒然草などにも代表されるように昔から親しまれてきた文化である。それを理系の、しかも傑作ミステリーを手がける作者の書くものであろうなら、その楽しさはファンのみならず森作品初心者にとっても楽しめる内容となっていること請け合いです。