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くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

何となく読み返してみる筒井康隆作品【おれに関する噂】

    何故か最近になって近所の本屋で平積みになっていた筒井康隆の【おれに関する噂】。
    私がこの本を読んだのは高校生の頃でもう15年前にもなる。自分の本棚にもこの本があったので、ちょっとパラパラめくってみる。

 

おれに関する噂(新潮文庫)

おれに関する噂(新潮文庫)

 

 

テレビのニュースアナウンサーが、だしぬけにおれのことを喋りはじめた。「森下ツトムさんは今日、タイピストをお茶に誘いましたが、ことわられてしまいました」。続いて、新聞が、週刊誌が、おれの噂をかきたてる。なぜ平凡サラリーマンであるおらのことを、マスコミは騒ぎ立てるのか?

 

     大人になった今読み直してみたら、新たな発見があるかと思ったら、特になかった(汗)。
     だが、それは筒井康隆の小説に重みや深みがないとかいう理由でなく、マスコミの体制批判や戦争問題を絡めたブラックユーモアが今も衰えていないという意味である。
    もちろん、この世の中の基本的な問題もーー

    ただ、現実の社会はもっとエグい。

    「マスコミが報道すれば、なんだってビッグ・ニュースになるんです。報道価値なんて、報道したあとからいくらでも出てくるんです」
     マスコミの人間はこんなふうにぶっちゃけたりしない。筒井康隆のマスコミ批判は、処女短編集の表題作である「東海道戦争」や「俗物図鑑」など、多数に渡るが、本書の表題作「おれに関する噂」は、短編という性質上、メッセージ性がコンパクトかつ奇妙だ(そう言えば、この話と「熊の木本線」は、世にも奇妙な物語でも放映されたっけ)。
     直接観てはいないのだが、アニメの星のカービィでも、「ブームはテレビ局の中で作られる」という趣旨のセリフをキャラクターが喋ったそうだが、まあ、いつの時代も大衆に流行するブームなどそんな感じで広まるものは珍しくないのだろう。
     だが、ブームや流行をほとんど批判せずに支持する人間がいるからこそマスコミがのさばるのもまた事実であり、むしろマスコミにとっては、ユーザーにとって自分らが悪だという認識でいてくれることの方がいろいろ都合がいいのだろう。一方的に報道する性質上、会話の余地を最初から無くして、ユーザー側から批判を浴びれば浴びるほど自分らを支持してくれるも同然だからである。対等な話し合いをせず、相手に深く考える隙を与えないのは、洗脳の基本だ、

    と、まあいろいろ書いたが、筒井康隆のブラックユーモアは「毒をもって毒を制す」的な意味合いが強く、啓蒙的な効果があるのか疑問に思う部分もある。だからこそ逆に、当時の世相や、現在の社会とかあまり考えすぎずに、単に一つのネタとして文章を追ってみれば、これほど面白いものはない。エンターテイメントとしてはやはり極上だ。