読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

コピーライターの大御所が示す“命名”【ネーミング全史】

    六本木ヒルズTSUBAKI、PARCO、からまん棒、SuicaごはんですよOIOI(マルイ)、お〜いお茶DAKARAクラシエ、サカムケア……この社会は、日本だけでも数えきれないほどのネーミングで溢れている。如何に覚えやすいか、名前だけで中身を知ってもらえるか、世の商標とは、まずはじめにネーミングありきなのだ。
    本書は、そんなあらゆるものの“命名”について、数々の歴史や背景があったことを伝えている。

 

ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た

ネーミング全史 商品名が主役に躍り出た

 

 

     著者の岩永嘉弘氏と言えば、ネーミングの第一人者であり、コピーライター業界では知らぬ人はいないと言われるほどの大御所である(余談だが、私は作家の原田宗典氏のファンであったので、原田氏がコピーライター時代に師事していたというところから岩永氏を知った)。
     岩永氏が本書で語る、命名やコピーの歴史は非常に広く深いところから語られており、読むと「この商品はこんなルーツで生まれたのか!」という新たな発見に満ち満ちている。例えば、マクドナルドの「チキンタツタ」や「日清オイリオ」という名前も岩永氏から生まれた名前である。
    私が一番唸らせられたのは、日本帝国海軍の戦艦が旧国名であったこと、第一巡洋艦が山の名前などである。その一方で駆逐艦のネーミングが美しく名付けられ、洋上を縦横無尽に戦い、フォーメーションを各艦に伝え、名前を動かすことで戦略を遂行したことであった。

雪の名前:白雪、初雪、吹雪、深雪
雲の名前:群雲、東雲、薄雲、白雲
波の名前:磯波、浦波、薄雲、敷波
霧の名前:朝霧、夕霧、天霧、狭霧

     今日のマーケティングも、ネーミングによるブランディングを利用した戦争といっても過言ではない。しかし競合他社がその商品の特徴やウリを意識して明確なブランドイメージを作ることの難しさもある。例えば、車に興味がない人にとっては、トヨタが“C”で始まる名前の車を多数輩出した(「COROLLA」「COLONA」「CALDINA」「CARINA」「CAMRY」等)としても、かえって混乱してしまいそうでもある。グループ商品の統一イメージのブランディングにおける良質なアイデアは、実例が少ないようだ。

     商標名だけでない、こんなところにもネーミングは存在する。
     香川県の広報のスローガンとして生まれた「うどん県」。単なるうどんそのものだけでなく、「うどんかりんとう」「うどんアイス」「うどんバーガー」など、どんだけうどん推しだよ! と突っ込みたくなるくらいのプロモーションだ。確かに香川県の魅力アピールには繋がったようだし、実際インパクトもバッチリである。ただ私個人の考えを言わせてもらうと、それ自体は良くても、「香川県にはうどんしかない」という自虐的なネタにも聞こえる……。それも引っくるめたうえでのキャンペーンなのだろうが。
     当然、キャッチフレーズにおいてもネーミングは命だ。以下の写真を見てみよう。

f:id:jiru4690:20170204185131j:image

    上段に「世界の“うまい”に負けてられない。」
    下段に「世界の“お母さん”に負けてられない。」
    とあり、中央に「世界のkitchenから」で、
    その上に小さくKIRINのロゴマーク
    これを見た人は、ます大きなキャッチフレーズの三段構えに目が行き、その後KIRINという会社のロゴ、そして一番下の説明文を見る暇があったら見る、といった風に誘導しやすい作りになっていると言える。単純にキャッチーなコピーを作るだけでなく、広告を見た人に会社の新ブランドのネーミングを知ってもらうための斬新な作法だ。このような工夫もまた、自社の名前や新しい取り組み等を知ってもらうための一つで、興味深い。

    また、ユニークな名付け作法で有名な会社と言えば、小林製薬である。「サラサーティ」や「熱さまシート」など洒落の効いた名前はもちろんのこと「のどぬ〜るスプレー」や「糸ようじ」など、もはや商標名を通り越して道具の代名詞として定着しているものも多数見受けられる。そんな小林製薬の商品の「サカムケア」を本書では取り上げているが、なるほど、「逆剥けが酷くなったから薬が欲しい」→「ドラッグストアに入る。だけどどの薬を選んだらいいのか」→「サカムケアという商品を発見する」→「手に取る」もはやここまで全てテンプレの如き、である。おそらく小林製薬では、ただ見事なネーミングをつけるといっただけに留まらず、“薬品”という、ユーザーにとって「デリケート且つ買って失敗したくない、けれど何を選んだらいいのかわかりにくい」商品だからこそ、このようなわかりやすさと親しみやすさを兼ね備えた必要性を感じ、シェアを獲得しているのであろう。

 

     まだまだ本書には、あらゆる商品名やキャッチコピーなどの歴史や成り立ち、背景の紹介がされているが、とても多くて、尚且つどれも唸らされるものばかりで、非常に充実した内容となっている。

    ーー最後にーー
    本書はネーミングに関する全般的な面白さだけでなく、名前の作り方について様々な視点から解説している。ターゲットの分析、ネーミングアプローチの設定、キーワード検索、語呂合わせやオノマトペを使う際の注意点や有効策が詳しく載っている。ネーミングに興味があったり制作する人にとって非常に機知に富んだ資料まであり、且つわかりやすい情報で占められている。更には“言葉の“音による性格”のチェックポイントまで掲載されていて、例を挙げると、母音の「あ」には“明るさ”、「い」には“鋭さ”が込められていて、子音の「f」には“軽さ”、「w」には“強さ”といった具合にだ。
    商品名はあらゆる社会を作り出してきた。本書を読むことによって、我々が馴染んできたそれぞれの“名前”というものを、深いところまで覗けるようになれるだろう。