くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

九井諒子さんの初期の短編集

    現在は、漫画「ダンジョン飯」で人気を博す九井諒子さん。

    この漫画が出てきた時の感想を率直に言うと
「この人本当ドラゴンとかファンタジーが好きなんだな……」
    だった。


    2013年頃に、私がたまたま本屋で手に取った「ひきだしにテラリウム」を読んで、それからこの「王道を抑えながら捻くれた見方で面白く展開していく」手法に見事にハマった。

 

ひきだしにテラリウム

ひきだしにテラリウム

 

 



    オチそのものは比較的スタンダードなものが多いのだが、「それをテーマにしちゃうか〜」と思えるようなものが多く(例えば、コミックエッセイ漫画家の旅行記そのものを俯瞰的に見たり、変な性壁を持った人を好きになってしまったり、子供向けに考えた動物を主人公にした物語をあらぬ展開で深く考察してみたりとか)。
    ダンジョン飯も、ウィザードリィなどのRPGで、「そう言えばこの主人公達って、空腹を感じたらどうしてるんだろう? 魔物食べたりとか」という発想から生まれたのだろうか? 余談だけど90年代以降のゲームだと、満腹度が設定されていたり回復アイテムが食べ物だったりするゲームは珍しくなくなったけど、80年代は「MOTHER」くらいしか思いつかない……

 

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

竜の学校は山の上 九井諒子作品集

 

 

    一番初めの短編集【竜の学校は山の上】から、既に九井諒子さんの世界観は炸裂している。表題通り、竜やファンタジーが存在しているのはもちろん、これらの作品には独特の観点がある。それは、「不思議な世界観そのもの」ではなく「一般社会から見たら不思議にしか見えないものを当たり前に受け入れている社会」を創造するのがこの人は本当に上手い、と思う。竜学部という学部がある大学とか、普通の人間(?)と下半身が馬の人間との共生社会とか、「あったら面白い、でもあったらあったで楽しいこともあるけどこんな問題とかもあるよ」といった感覚を引き起こさせてくれるのだ。
    最後の話である「くず」だけは、何だか現実世界にもありそうな話で、ちょっと身につまされる思いをする人もいるかもしれない……

 

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)

九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子 (ビームコミックス)

 

 

    次作の【竜の学校は山の上】も、前作と似たテイストの短編集だ。童話をモチーフにした話やガチガチのファンタジー、またはそれらを現実の社会と融合したり。それらも単なるおとぎ話ではなく、自然淘汰亜人との交流、差別、復など、どことなく人の心理や感性に訴えかけてくる描写に惹きつけられてしまう。特に好きなのは、狼男症候群の青年の話で、成長するたびに身体が狼みたいになってしまう奇病をテーマにしており、そのような体質で一般社会に溶け込むことの不都合さや葛藤、その末に得られるものなどを書いている。こう言ったマジックリアリズム的な作品も書けるのが、この著者のすごいところだと思う。

    竜や人魚、小人や宇宙人と共に生きる社会に、我々は夢見がちだ。しかし、そこには負の側面も当然生まれる。現実の世界ですら、人間は数々の動物を死に追いやったり、絶滅させてきているというのに、果たして“ファンタジーでしか生きることのできない”生き物が我々の生活に紛れ込んできたら、暖かく迎え入れることなど出来るだろうか。例えば【ひきだし〜】には、「遠き理想郷」という短編で、自分の作品そのものを皮肉っているとも取れる話がある。
    動物だけでなく、人間同士であったって差別するのが人間なのに、亜人や知性の高い生き物など簡単に受け入れられる訳はない。
    というわけで、実際には、ファンタジーの世界の動物などこの世にいるわけはないし、いたとしてもあっという間に駆逐されてしまうに違いないのだ。
    だから、このような作品が映えるし面白い。漫画大国日本は、世界でも有数の、争いごとの嫌いな平和国家なのである。