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くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

寓話が見せる様々な解釈【かもめのジョナサン】

    かもめのジョナサンはアメリカの作家リチャード・バックによって生まれた寓話的小説である。出てくるキャラクターは乱暴に言ってしまえば、ほぼかもめだけと言って良い。短い小説でありつつ、生きる上での意思や価値、食べることや長生きすること以上に大事なことを見つけるという哲学的要素や愛、など、いくつかのテーマが存在する。

 

かもめのジョナサン: 【完成版】 (新潮文庫)

かもめのジョナサン: 【完成版】 (新潮文庫)

 

 

     ーーあらすじーー
飛行するという行為そのものに価値を見出し、食事や休息といった、生きるために必要な行為すら忘れ、飛行に没頭するジョナサン。群れや家族からも呆れられ、変わり者扱いされ、やがて群れからも追放される。しかし、ジョナサンは「飛ぶ」という行為に突き進み、やがて完全な自由を得た光り輝くかもめになっていく。その先には更なる教えや飛躍、そして弟子を連れて下界に戻るなど、様々な思想を、他のかもめに振りまいていき……
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    この作品は、寓話であるが故に、様々な解釈がなされてきた作品であるらしい。生物が生きるために必要である欲望などを取り除いた啓蒙的な作品である、最終的な答えは愛であるというキリスト的な教えが漂う、など。いずれにしても、この作品が世界中の読者に与えた影響というのは非常に幅広く、それでいて奥深い。
     ジョナサンは、最初から飛ぶことをひたすら追い求め続ける。群れや両親と違う目線から、ただただ己の向上を重んずる。もしかしたらこの時点で、肌の合わない読者が出てくるかもしれない。何故、生きるために必要なことすらも捨ててそれ以外のことをしているのか。群れから離れて自分のしたいことを追い求めるのがそんなに尊いのか。これも、寓話的であるがために、作者からそう言ったメッセージが込められているのではないか、と考えてしまえる作りになっているため(実際にはどうだかはわからない)解せない人は序盤の時点でため息をつかされる可能性がある。
    ジョナサンがただのかもめではなく光り輝く存在になった後も、欲望や生殖行為といった行動よりも、哲学的な観点から見た「生きる価値」というものにスポットが当たり続ける。例えば、我々人間も動物であり、道徳や向上心や愛といった哲学も大事だが、それ以上に生きるためにありとあらゆることをしないといけない。“この作品は意図的にそのようなシーンに重きを置かずに、啓蒙的な価値観を前面に出している”。そのため、快楽を否定しなかったりする人や、マザーグースに代表される“教え”のような雰囲気が苦手な人もまた、ここで眉を顰めることになるかもしれない。加えて、この作品は小説だが、どこか抒情詩的な話の進み方になっているところもある。大きなストーリー展開があるわけでもなく、かもめ達の意識を海上や大空に擬えて、それぞれの空間を舞台に飛び回っている。

    偉大なるものに憧れたことのない人間はいないだろう。しかし、それとは別に、マズローの五段階欲求に代表されるような、生理的欲求や安全欲求を無視できないのもまた事実、というか、こっちの方が当然重要であろう。このかもめのジョナサンは、五段階欲求で言えば高次の欲求を追い求め、自分なりの答えを出し続ける。
    そこで、この本を読んだ我々は、教えのようなものを受けないまでも、本作品に対して一体どのように感じる部分があるのか?
例えば、純粋に自己実現や愛といったものからの、集団意識に対して俯瞰する一種の傲慢さかもしれない。普段の生活でも感じとれるような、潜在的にどこか引っかかるテーゼがこの作品にはある。そこで、この作品を読むことによって見えるものは、もしかしたら読んだ人自身の、意識の奥に近いものなのかもしれない。
     光り輝くジョナサンは、そのまま輝く鏡のように、我々を見越しているのか? そう考えると、さすがの私もちょっとたじろいでしまうものがあるが。