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くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

仕事前の居心地が悪い時間帯にあえて【居心地の悪い部屋】を読む

 

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

居心地の悪い部屋 (河出文庫 キ 4-1)

 

 私は日曜日の夜という時間が大嫌いだ。

 平日が幕を開けようとしているこの時間帯に、一体この国の労働者や学生がどれほどのため息をつくのか、その二酸化炭素の排出量を抑えることが出来たら地球温暖化にもならずに済んでいるだろうに。

 そうそう、地球温暖化で思い出したが、以前までの私の職業は、某有名自動車会社の派遣社員だった。

 その工場は人を殺せる機械であふれている。旋盤、プレス、鈍器、コンベア、機械油、ブレード、高圧電流、etc...

 しかし、確実に人を殺す、もっと恐ろしいものがある。それは

パワハラ上司」

「暴力・暴言・嫌味・叱責」

「ノルマ」

「鬱屈した雰囲気」

「欠勤控除」

長時間労働・残業」

「契約更新無し」

「失業」

「病気」

「生活苦」

「自殺」

・・・・・・

 

 しかし

 それらを想像するときりがない。

 かと言って、楽しいことや笑えることなどで気を紛らわしても、出勤する時間になったら理想と非情な現実のギャップに苦しむだけだ。

 だからいっそのこと、自分で自分を居心地の悪い部屋に閉じ込めてしまえばいいのだ。

 私が考えた【居心地の悪い部屋】を読んだ後の、居心地の悪いストーリーはこうだ。

 

 いいかね大熊詩音クン(私の名前)。君は今日から一生骨をうずめるつもりでここで働かなければならないんだよ。君の心臓の鼓動がこの世から消え去るまでね。たとえ君が生きている間に心臓が規則正しく鳴らなくなっても決してラインを止めてはならない。君の代わりなどいくらでもいるのだからね、生産し終わったワークのほうが君より何倍も価値があるという認識でこちらはいるから、そのつもりで。

 さて、君には生活に役立つものを作る生産ラインのオペレーターを担当してもらうよ。え、一体それは何かって? それは君の知るところじゃないよ。作っているモノがたとえ食品だろうが機械部品だろうがスマホだろうが、あくまで「今の社会の生活に役立つもの」を作ってもらうだけで、君にはそれ以上何も期待していないし、君としても何も知らなくていいんだ。なぜかって、それは君など社会で役立っているネジやハーネスや弁当の具材以下なのだからね。それらは、この世からなくなれば誰かが困る。しかし君がいなくなってもこの世は誰も困らない。もちろん、我が社にとっても、私にとってもだ。何度でも言うが、君の代わりはどこにでもいるし、いくらでもいる。それが嫌なら働けーーいや、違うな。君などいくら働いたところでネジ一本の価値もないな。いけないいけない、私としたことが当たり前すぎることを言って時間を浪費してしまった。

 仕事は誰に教えてもらえばよいのかって? 君は本当に使えない上に愚かだね。そんなのは自分で考えてやるに決まっているではないか。マニュアル? そんなもの我が社にはない。たとえそのような冊子があったとしても君には到底理解など出来はすまい。何せ工程を理解できぬのであればあっても意味はないのだからな。そしてさらに君のようなボルトネジ以下の存在に教えてやれるような教育係の社員などつけてやれるほどウチも余裕はないし、あったとしてもムリ・ムラ・ムダの3無でしかない。だから、今から君はここで「自分で考えて」「生産し」「時間内にノルマ分をクリアする」のだ、いいね。そうそう、就業時間は契約書には8時間と書いてあったが、実際にはノルマ優先主義だからねウチは。もちろん、それが未達で定時間をオーバーしたとしても超過勤務手当てなどおりない。将棋のコマ以下の君にそんなものを払う余裕があるのなら、もっと腕利きの良い社員を雇っているからな、ハハ。

 ちなみに、働いている時間中は、無駄なことは一切考えるな。いや、働いていない時間外であってもだ。常にここの仕事を365日24時間意識し続けていろ。世の中には、やれ労働基準法だの人権だの甘ったれたことを言う者であふれているが、勘違いしてはいけない。君たち労働者というのは金のドレイなのだよ。全ては金で世の中は動いている。君だってウチが賃金を払わなければここに働きにこないだろう? 早い話、死にたくなければどんな仕事も100%確実にこなさなければならない。例えばだ、君が弁当業者に弁当を注文したとする。その弁当の中におかずが一つでも欠けていたら、君は不満に思うだろう。それと同じだ。君が100%の仕事をしないことによって誰かに迷惑がかかる。君が失敗したときのフォローアップをするつもりは、ウチも当然ない。例によって君を助けるための人材など、もったいなくて雇えないからね。常に完璧な仕事をして、初めて最低賃金、いや、一円から稼げるというものだよ。それもこれも、君たちのような労働者兼消費者が、さんざん企業や資本家様にクレームをつけるからだ。いいかい、こういったことはすべて自分達が蒔いた種なんだよ。君たちは幼少の頃から甘やかされてきて、誰かが必要以上に自分という存在を気にかけてくれて、施しをしてくれないと生きていけない弱き者であるということを自覚したまえ。そのツケがまわって、今こうして、我が社が抱えている我侭なお客様や株主に、完璧でソツのないものを提供しなければならなくなっているのだ。つまり、今こうして君が私にいびられているのも、最低賃金であらゆる手当てがない環境で働かなければならないのも、全て自分自身の責任なのだ。ここで私や、社会というものに不満をぶつけるというのは、とんだ逆恨みというものだよ。いいかげん目覚めなさい。

 ほら、そろそろ生産の作業に入ってもらわなくては困るよ。今日のノルマが達成できなければ君は残って仕事をすることになる。もっとも、そうなったとしても残業代を貰う権利はもともと君にはないのだから関係ないがね。ただ、工場も会社も、最近光熱費などのランニングコストが逼迫していてねえ。君のような人間に無駄な電気代など一円もかけたくないのだよ。それに最近はエコだのなんだの五月蝿い社会になってきたから、お客様や世間のイメージを壊さないためにも、ひとつよろしく頼むよ。

 わかったかい? わかったなら早く始めなさい