読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

【第155回芥川賞受賞作】文体からストーリーまで、良くも悪くもコンビニ的【コンビニ人間】

 

コンビニ人間

コンビニ人間

 

  芥川賞受賞のニュースをヤフーで見ていて、作家のご尊顔を拝するためにクリックしたら

「わあ、若くてきれいな女性だー」

 なんて思ったのだが、アラサー過ぎとるんか……僕より年上。

 

 さて、作者の村田紗耶香氏。ご本人もコンビニでのアルバイト経験が豊富とのことで、本作は大学在学中からずっとコンビニで生計を立てているという女性を主人公にした一人称小説。

 まあ結論を先に行ってしまうと、本当に良くも悪くもコンビニ的な要素がそろった作品でした。お手軽に読め、文体も平易で、つまらなすぎず面白すぎず。ただ、作品とはもちろん関係ないが本の値段は1400円……それこそ同じ金額なら握りしめてセブンで買い物したら4人家族のおかずをテーブルに並べられるね。普段この作品の主人公が食べているようなご馳走に代えてこの本一冊に費やせるかといえば、そこは好みが別れるもちろん僕はこれが芥川賞受賞作品だったから買いましたよええ。これまた本作とは関係ない話だが、コンビニ版の廉価コミックって何か買う気しないんだよね……普通に中古屋やamazonで買えるし、ってそれを言っちゃあ駄目か。

 さて、そろそろ本作の内容に移ろう。

 コンビニでずっと働いている主人公。就職経験もなければ恋愛経験もない。当たり前のようにコンビニ側からすれば主戦力で、周りの登場人物からは概ね慕われ、しかしやはり変な顔をされたり苦言を呈したりすることもあるわけで。

 現実にこのような女性が増えているのか珍しくないのかどうかは別にして、本作は、コンビニで働いたことのある経験のあるなしを読者に問うことなく、ストレートに楽しめる仕上がりにしたのは素直に優秀な点だと思う。フェイスアップ、ウォークインなんて、働いたことのない人からすればハイゼンベルク不確定性原理と同じくらい聞きなれない言葉だろう。僕も20代後半までコンビニで働いていた経験があるが、本作にもやはり、経験者ならではのあるあるや人間模様などが詰まっていて、読んでいて飽きさせない。あとついでに、人の悪口言う会話シーンだけ油が乗っているような感じも、情景が目の前に浮かぶほどリアルだ。

 中盤辺りから出てくる白羽さんも、なかなかいい味出してる。セリフ自体は自然体であるとは言えないが、「底辺」とか「機能不全社会」とか「ネット起業」とか、もはやそんなのを知っているだけで「うわぁ……」と思ってしまうような語彙を次から次へと口にと出す恥ずかしい奴。ある意味では、主人公以上に作者の一面が投影されているキャラクターだと言えよう。

 実際――ネタバレは控えるが――気持ち悪いのはこの男より主人公。。。

 

 人間の価値観が絶対的なものだなんて、やっぱり嘘。

 多くの人は、他人の決められた判断基準の中でしか生きていけないし、とりあえずそうした方が楽だから、たとえそれが間違っていたとしても右へ倣えで生き続ける。実際この主人公がとあるアクションを取ってからの、店長や同僚、家族からの熱い掌返しはなかなかのもの。主人公は

「本当はそんな風に思われていたのか……」

 などと絶望する暇もなく、ただ周りに言われたい、されたい放題。でも自分の意志は貫く。そこだけはちょっとカッコいい。

 

 いい年こいてコンビニ店員。

 僕こそ人のことは言えないが、やっぱり自分だったら少なくともなりたくてそうなったりはしない。でも餓死したり自殺したりするという最悪のケースを考えれば、プライドなんか捨ててフリーター、それも(実際にはそうでもないのに)ハードルも難易度も高くないコンビニの店員として生きていくのも、実際は悪くなかったりする。

 それでも周りは苦笑いを浮かべながら言う。

「コンビニ店員……」

 でも、なかなかこの本は面白かったです。底辺、フリーター、無職、負け組、借金、その他ありとあらゆる負の要素が口にするのも禁忌とされがちな現代社会において、それらを浮き彫りにし、自虐的にずけずけとえぐる。

 結婚・お見合い相手がコンビニ店員だったら? もしくは、小学校の卒業文集で将来のなりたいものの欄に「コンビニ店員」とネタじゃなく本気で書く子供がいたか? つまりはそういうこと。

 辛口で本作の批判店を少しだけ挙げる。冒頭の主人公の突拍子もないエピソードや、いちいち元気な店員のキャラクター性をアピールするための「!」マークの多用は、いらなかったと思う。純粋に、作者及び主人公が何も考えずにコンビニ店員のとしての描写を書いてくれた方が、よっぽどリアリティもドラマ性も高くなっていたように思える。悪い意味で文体や表現を安っぽくする必要はなかった。

 

 繰り返すが、良くも悪くもコンビニ的な内容だった。この本のことではないが、文壇だってコンビニの廉価本よりよっぽど質の悪いものを出す世の中だ。

 もっともっと世に出るが良い。ド直球に世の中の安っぽさや便利さを書いた、胸をざわめかせる小説が。