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くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

最低ラインの「生きるため」という努力は怠ってはならない【諦める力〈勝てないのは努力が足りないからじゃない〉】

 

 確かに努力すれば夢がかなうなんて大嘘。

 夢がかなう人はごく一握り。

 人は万能でなく、世の中は平等ではない。

 

 この本に書かれてある為末氏の文言は、ぐうの音も出ないほど正論ばかりであり、プロアスリートとしてのその説得性は、他の追随を許さない。

 

 本書の素晴らしい点やその的を射た発言の数々は、実際に読んでいただければわかると思うが、その一つ一つが重く、力強い。もちろんスポーツに全く縁がない人が読んでも問題なくすべての言葉を吸収することが出来る。

 

 だが、それだけに、残酷な現実を言い当てているのもまた事実。

 

 スポーツだけでない。勉強、仕事、芸術、タレント業、その他。本書【諦める力】の記述はありとあらゆる事象に置き換えても成立する。

 「人生」という名のフィールドであってもだ。

 世の中には、華々しい世界におけるプロフェッショナルな才能の所持は云々以前に、普通に生きていくことすら難しい人間もいる。生まれつきの能力が劣っいるために、コミュニケーション、学業、就職などで躓いてしまう人間もいる。人より数倍の努力をしているにも関わらず、だ。そして悲しいことに、そのような人間は周囲から虐げられ、社会的に抹殺されてしまうケースが非常に多い。いくらそのような人が周囲の人間と溶け込もうとしても、自分の感覚や他人より要求される能力のズレなどから、結局定型的なアドバイスや支援をそのまま受け入れられず、余計に苦しい思いをする。そして息詰まる。

 この本でも明記されているが、悲しいことに、世の中にはランク付けというのが存在する。いや、どんな世界に行こうとも、背比べさせられることから絶対に逃れられない。

 

 世の中には、恵まれた才能を持つ人や、大きな才能こそないものの平均的な生活をしている人等様々な人間がいる。同時に「何の才も持たず、何をやっても絶対に上手くいかず、最期の最期まで無念にも死んでいく人間」もまた確実存在する

 そしてそういう底辺を突き破った更なる底辺の人間は、底辺であるがゆえに救われることはおろか誰からも気づかれず、愛されない。こういう人間は、血のにじむような努力をしてもやはり何一つ成し遂げられない。合格ラインと能力の差があまりにかけ離れすぎているからだ。

 そういう人間はどうすれば生きていけるのか。

 答えは意外なほど簡単。

「生きるために努力すること」

 それだけである。

 

 世の中は残念すぎるほどに理不尽である。アスリートとか芸能とかそれ以前に、「どうすれば死ななくて済むか」、ということに対し不断の努力を強いられる人間もいる。また、現在の日本では、自殺者が減っていると聞くが、その実態は老人の自殺率が減り、若者の自殺率が増えているだけだという。もしかしたら早期に、自分の才のなさを自覚してしまった若者が死に急いでいるというケースも、多数存在するのでは、と推測できる。

 だが、それでも生きるための努力だけは、何があっても怠ってはならない。

 本当に最低限のことで、他の人が当たり前にこなしていることに何倍もの努力をこなさないとならない自分自身に苦しみや自責の念を感じるかもしれない。

 しかし、世の中は生きることこそがすべてである。

 そのことに目を向け、必死に努力できていることは、実は何よりも素晴らしいことなのだ。

 何かに対して努力したり、結果を出したりすることが素晴らしいのであるなら、何故世の中は「毎日自分の生命と向き合い、それに向けて努力する」ことを素晴らしいことだと思わないのだろう。

 自殺はいけないことだと思う。しかしそう教えるだけで本気で自殺をしようとする人の行動を防ぐことは難しい。その理由は、生きることに必死になることの大切さを教えることのできない人間が不思議なくらいに多いからだ。そればかりか、本書でも指摘されているとおり、誰かが失敗するとすぐに「努力が足りない」という言葉を浴びせる人間のなんと多いことか。そしてそういう言葉を鵜呑みにして自信をなくしてしまう人は、もっと多い。

 それではその「生きるための努力」とは何か?

 多角的に見ればその内容は様々だが、大きな共通点を一つ上げるとすれば、それは「自分を知ること」だ。

 人や環境が常に変化し続けていくのと同じく、自分というのも常時変わり続ける。そんなとき、日頃から変わっていく自分をただ受けいれ、信じていくことこそが、自分を知るという、生きるための大きな努力の一つである。

 私もまた、結果に結びつかない努力なんて何もしなくていいと思っている。特技がなくとも、人に誇れるものがなくとも、敗北続きでも、全然恥じることは何もない。それどころかただ生きるための努力をしている人には何も叶わない。

 生きることをもっと柔軟に考えてもいい、ということを、本書は教えてくれた。

 この無能な私にも。