くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

【山野一】人生って意外とこんなもの【四丁目の夕日】

 

四丁目の夕日 (扶桑社文庫)四丁目の夕日 (扶桑社文庫)
 

  はい、こんにちは。今回は山野一氏の伝説のコミック【四丁目の夕日】。

 【どぶさらい劇場】の記事を書く前にこちらを書くべきだったかもしれないけれど……この本とにかく暗いから、本当は書いて記事にするつもりはなかったのです。

 でも、最近自分の生活がいろいろ落ち込んでいるせいもあって、何か主人公とシンクロしたくなり、再読し、やっと書く気になれました。その結果ちょっと気付いたこともあったし。

 

 この本のあらすじはだいたいこんな感じ。(カッコ内は突っ込みどころ)

 一橋大学合格を目指す受験生の主人公が、彼女に逃げられたと同時に、暴走族に襲われる。

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 主人公の金持ちの友人のおかげで助かり、命からがら帰宅。ちょうどその時、母親がゴミを燃やしていたとき、スプレー缶が爆発するという事故を起こしていた(分別するべきだった)。母親は大怪我をし、一家の困窮が幕を開ける。

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 工場経営者である父親は、医療費と主人公の大学の費用を稼ぐために、寝る間も惜しんで働く(もともとヤクザから金を借りて事業を起こし日々の生産を回していたという自転車操業だったのに、稼働時間を増やし医療費を稼ぐとか無理ゲ―)。その結果、疲労の影響で事故を起こし、父親死亡。家には莫大な借金が残る(何故労災がおりなかったのか)。

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 ヤクザから激しい取り立てを受ける。主人公も人前でボコボコにされる(こんなことがあったら即警察沙汰になってもおかしくない)。

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 主人公は大学受験を諦め、幼い弟と妹のために、父親と同じ仕事である印刷工に就く(金持ちの親友に、頭を下げてでも頼るということを考えればよかった)。新たに住み始めたアパートも隣にキ〇ガイがいるような劣悪な環境。

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 生活は貧しくとも、安定した日々が続いていた……かのように見えたが、慣れない重労働や会社の人間のパワハラなどが原因で、主人公は精神を壊しはじめる。たまたま出会った金持ちの友人や元彼女との会話のシーンは、もはや正常な人間のそれではない(何故これほどの事態に陥る前に誰もちゃんとしたところまで気付いていなかったのか)。

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 家で弟の誕生日を家族で祝っている間に、隣に住んでいるキ〇ガイが斧を持って来襲。妹と弟を惨殺。主人公はその瞬間完全に理性が切れて、キ〇ガイの持っている斧を奪い、返り討ち。そのまま外に出て、通行人を次々と殺害。取りおさえられた後も責任能力がないとみなされ無罪となり、精神病院へ入院(こうなる前にry)。

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 30年余りの月日を経て、退院することに。清掃員の職を与えられ、ようやく第二の人生を始めることになる。

 

 うーん、ひどい漫画だ(直球

 所々突っ込んでみたものの、これは漫画の内容に対するダメ出しの意図によるものではない。

 

 確かに、これほどの不幸の連鎖を繰り返す前に、対処できることはいくらでもあったはず。そしてそこでくい止められていれば、後続の悲劇に繋がらなかっただろう。

 人間堕ちるところまで堕ちるシナリオを用意されたら、本当にどこまでも転落していくことが出来るのである。そして一度、不幸の連鎖という火蓋を切ると、もう自分の力では抜け出せなくなる。そんな一人の人間の弱さを、この漫画は描いているのである。

 

 繰り返すが、私のような頭の弱い部外者が「そうなったらこうすればよかったのに」と口を挟むかの如く突っ込むのは簡単だ。

 しかし、ほんの少し不器用であるがために、最善を尽くすことの出来ない人間が、この世には山ほどいる。

 ましてや、昭和の殺伐とした町と工場を舞台にしているのだから、自己を救済する考えに至らなかったという背景もあるだろう。

 今の世の中だったら、一度何かあっても、少し人の力を借りれば、何とか不幸の訪れをくい止め、人生を持ちこたえさせることはそう難しくない。頼れる人に相談したり、福祉や支援、法律の窓口に足を運べばいいのだから。

 

 早い話、この主人公は父親が死んだあたりで、もう人間不信に陥っていたのであろう。

 誰も信用できなくなり、誰も頼れない。この漫画ではそういった描写はないが、本当にそれほどまで悩んでしまったら、人はもう幸福とは程遠い人生を送ってしまう。

 悲しい。

 常に、救いの手は身近にあったのに、その道を選ばずに、愚直に働き、最終的に狂う。でも人生って意外とこんなもの。地獄はこの世の中に確かに存在するのであるから、そこに嵌っていったと同時に誰かに助けを求めたりしなければ、底なし沼のように沈んでいくしかないのである。人一人が発揮出来る力なんて儚い。

 今の人と人とのつながりが薄まっている平成の世の中で、この本が教えてくれるのは、

「困った時は誰かを頼っていい」

 ということだ。

 陳腐なまとめに見えるかもしれないが、実生活上で生きていく上で大事なことはそんな簡単なことから始まる。

 この作品の文学性は高い。だからこそどんな苦しい立場にあろうと、読者は自分の人生に主人公と当てはめて考え、自滅という道を選ぶようなことはしてはいけない。僕はこの本を再読した時、それを学んだ。