くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

実は比較的珍しい三浦しをん氏の一人称長編小説【格闘する者に〇】

 

格闘する者に○ (新潮文庫)

格闘する者に○ (新潮文庫)

 

 

 受験の時期と言えばちょうど今頃だろうけれど、就活の最盛期って業種や企業によってまちまち。

 この小説の主人公は、漫画好きだから漫画編集者になりたい、という一念で、とりあえず就活を始める。いろいろ世間の荒波にもまれながら。

 本当に少年漫画の主人公のような単純さで話が進んでいくので読みやすい。それでいて、ほとんど社名を公表して書いており(K談社、集A社など)何だか氏は自分の専売特許をいろんな意味で活かしまくってるなぁという印象を受けた。

 就活の真っ最中なのに、友人たちは自分が「僕ホモかもしれない」「私デブ専みたい」とか宣って、のんべんだらりと過ごしている。でもそんな主人公も、平服の意味も知らなかったり、SPIをSPYと勘違いしたり、なんでだか知らないがじいさんの彼氏がいたり、まるで世間の荒波とは無頓着に見えて、真剣に格闘しているようには見えない(その“格闘”っていうのも、主人公たちが受けた就活の筆記試験の際に出版社の人間が“該当するものに丸をして下さい”と言う所をひねってそう言っただけ、というもの)。でもうざい面接官と遭遇したり、プライベートでも物々しい雰囲気の家族会議に参加させられたり、ピリリと来るようなシーンも多く、全体を見てみると、そんな登場人物たちが感じているようなゆるさはあまりなく、むしろ現実の厳しさの対比を表しているようにも感じられた。

 ましてや本書は、まだ20代前半の著者によって書かれたものだから、その瑞々しさというか、青臭さというか、そんな若きものの苦悩が非常にダイレクトに書かれていて、嫌味や説教たらしさを感じさせない。どんな仕事でも働くというのは本当に大変なことだ、とか。「そんなの当たり前だろ!」と、そういうこと考えられるようになったのも社会人になってからでしょう。学生の時というのは、なかなか外の世界に出られる機会が多くなく、自分の尺度以外の世界を見るのが厳しい身分なのだから。

 就活って、どれだけ社会の理不尽さに耐えられるかどうかということをテストしている登竜門に過ぎないんだよなぁ……と思わされてしまうなこの本を読むと。それが正しいことかどうかは置いといて、その理不尽さってのはじゃあ一体誰が生み出してるの? 主人公のように面接で何でも正直に答えたりする人は会社勤め向いてない? 疑問は尽きぬ。まあ日本と言う国だけ見てもいろんな仕事や会社があって、働き方も十人十色だから、一概には言えないけれど、本作は少なくとも出版社の古き悪き体質や業界のどうしようもない部分などを浮き彫りにしているので、これから大手出版社を受けて漫画編集者になろう、と考えている人にはいい資料にもなる……かも知れない。もちろんそういうのと全く関係がない人が読んでも十分に面白い。

 でも本当にこの本に出てくるような感じなのかな、それぞれの出版社の体質とか組織の考え方ってのは。だとしたら、紙媒体の本が空前絶後の大不況になるのも頷けなくもない。