くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

お願いですから自分から死なないで下さい【幽霊人命救助隊】

 

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

幽霊人命救助隊 (文春文庫)

 

 

 奈良県の自殺率は日本の都道府県の中で一番低いらしい。

 その理由は、近所に神社仏閣が多く、あらゆる悩みを聞いてもらえる土壌があるからである。

 この自殺した幽霊達のように、追い詰められた人々の心に、生きるための意味を直接訴えるような力を、悩みを受け止める側の人間はもっているからなのだろう、と思われる。神社やお寺に勤めている人達が心強い包容力をもっていることは疑いの余地がないが、人は誰しもそのような器になれる可能性もまた秘めている。

 

 この作品の4人の主人公は、自殺した幽霊達。永遠に成仏も出来ないままでいるところに神様が現れ「7週間の間に地上で生きる人達を救え」と命じる。そして4人の自殺者は地上へ降り、課せられた100人のノルマをクリアするため、救助へと赴く。

 人命救助隊、と言っても、救うターゲットは地上で自殺を考えている人達に限られる。

 しかし、自殺が殺人と並んで最も罪が重いのであれば、このような問題は現実でももっと重視されるべきだろう。

 何といっても、この本の中には主人公達以外を見ても、本当に誰も理解できない理由で死のうとする人がほとんど出てこない。つまり社会の抱える問題の犠牲になり、強者に押し付けられる形で死を考えてしまうのである。そのため、この本のもつメッセージの一つは、誰でも自殺を考えてしまう危険性を現代の世の中は孕んでいる、ということである。やはり自殺問題に関しては、もっと多くの人々が真剣に向き合うべきことだと思う。もう「自殺する奴は最低の人間」「自殺する側がすべて悪い」とか、いい加減そんな毒に薬にもならない戯言を吐くのはやめるべきだ。そんなくだらない言葉を吐くのに二酸化炭素を使う位なら、それこそその吐いた息は死の淵に立たされている人間への人工呼吸にでも使え、と思う。

 過労死、いじめ、旧世代の考えの押しつけなど、この本に出てくる人達は多くの悩みを抱え、世を去ろうと考える。そこに、メガホンを使ってその者たちの心に、生きる方向へとベクトルを向かわせる。人命救助隊と言ったものの、実際に自殺志願者を思いとどまらせたのは、全てその人達自身である。何も彼らは、飛び降りた人達をボンネットで物理的に受け止めた訳ではない。

 だからこそ、響く。この本は人は誰しも自分から死んではいけない理由をもっている、という事実がちゃんとあることを教えてくれる。事故死や病死がいいわけはないが、自殺はやはり非常に悲しい。その事実だけでも、もっともっと政府やメディアは広める義務がある。そういう意味で、この本は自殺を現時点で考えている人にとっても、力になれる可能性を秘めている。完全自殺マニュアルで逆説的に生きる力を奮い立たせようとするのもいいが、こういう本で真正面からダイレクトに、人がどのようにして救われるのかワクワクするという手もちゃんとある。

 

 しかし、主人公たちが命を救おうと東奔西走していくうちに、100人の命を救ってしまい、ノルマを達成してしまったら、もうこの主人公達によって自死を免れる人がいなくなってしまう、ということに読者は気付いてしまう。そういう意味では、残酷な現実を更に教えてくれるという側面をも併せ持つ。

 それで実際にどうストーリーが進んで最後はどうなるのかって? もちろんそれは読んでからのお楽しみです。

 

 自殺を選ぶくらいなら、もっと人に迷惑をかけてでも生きよう。武士道だか何だか知らないが、迷惑かけるくらいなら自刃するなんて時代はとうに終わった。ただ実際はきっと、神様に許されていない罪深いことだから自殺は悲しいこと、というのではないと思う。この本の登場人物達のように、メガホン一つで死を思いとどまる理由を誰しももっているから、その魂を自ら汚すことをしてはいけない、ということなのだろう。

 そういう事に気付く、ということは、今現在僕もまたメガホンで幽霊陣形救助隊に叫ばれている? 

 いや、別に自殺なんて考えてませんよ? ああ、でも最近疲れてるから自覚してない間に黄色信号が点滅……いや、何でもない。とにかく自分から死ぬ気はありません。

 確かに僕はいろんな問題を抱えながら生きているけれど、少なくとも、今は文を書くことが楽しいし、他にも生きがいがたくさんある。自殺はもとより、病気や事故でだって死ぬ気はないし、死ねない。これは本や文章により、自分が生きる力を得ているためでもある。