くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

引きこもりと無関係な人なんて存在しない【子どもがひきこもりになりかけたら】

 

 

 著者の上大岡トメさんといえば、数年前「キッパリ! たった5分間で自分を変える方法」というコミックエッセイで一躍ベストセラー漫画家になったあの方。その方がまさか、お子さんが引きこもりになりそうで、そういう方々を支援する認定特定非営利活動法人の門戸を叩くなんて。ちょっと思いがけないことでもあります。

 

 さて、この漫画はタイトルこそ、いかにもこの著者のように、自分に子供がいて尚且つ子供が引きこもりになりそうな兆候を見せている人にあてられた物に思えてくるが、ここで少しでも多くの方に考えて頂きたいのは、引きこもりは当事者や家族だけでない、全ての国民に対する難題になっている、ということである。本当単純に、自分が引きこもりにならないためにも、この本に出てくるような専門家の意見を聞き、手ほどきしてくれる資料は、今の時代絶対に必要だと思う。

 さて、この段階でぶっちゃけて言おう。引きこもりは100パーセント育てた大人が原因だ。育て方が良かった悪かった、とかではなく、引きこもりになってしまう子供はどのケースにおいても、この学校や社会を生きていく上で必要な(その子に合った)力を、親が見つけられていないという点で共通しているからである。

 引きこもりに陥ってしまう原因は、それこそこの著者とその家族ように、大きな問題を抱えている訳でもなければ、一見すると普通の家庭で育っている場合もあり、とても一概には言えないので、その解決法はそのケースごとによって異なる。だから一般論として、引きこもりの人に対して学業や社会生活に目を向けるための虎の巻などは存在しないが、当事者の立場を考えてみると一つだけ大きな共通項がある。

 それは、意外と子供は成長していく上で、マクロな視点で世の中を見ているということである。

 あからさますぎる高齢者への異常なまでの優遇、超少子高齢化で先の見えない未来、終身雇用の破綻、うつ病など精神を患う人間の増加、明らかな嘘や捏造ばかり報道するマスコミ、汚職の絶えない政治家や公務員、増える税金減る社会福祉。はっきり言ってこんな世の中で頭がおかしくなる人の方がむしろ人間として正常な思考回路をもっていると言っても過言ではないだろうか。

 そこに来て、自分の身近において、矛盾した親の行為(例えば子供に完璧を求めておきながら自分は完璧な育児が出来ていない)、ちょっとしたきっかけにより発生する学校内でのいじめ、進学や就職における挫折。ミクロな世界でもそのように信じられないことが起これば、今の子供は簡単に自分の存在価値を見失ってしまう。これは大人においてもそうだ。マクロで物事を考えようとせず、目の前のことばかりに躍起になっているから、自分の子供をはじめ、自身に出来ない事を人に押し付ける。これではもう弱い者いじめと変わらない。目の前の問題が解決できない時こそ、もっと物事を大きく見るべきなんじゃないだろうか。まさに木を見て森を見ず、な状態に陥っているのが、今の日本の養育の現状であり、問題点である。

 確かに大の大人でさえ、いや、だからこそ、世の中について考えたくないことなんて沢山ある。例えば我々が必死で働いて納めている税金は何に使われているのか。しかしそれを考えると絶対に良い報告を聞けないから、みんな知らないふり、聞かないふり、だ。加えてこれといった解決もしない、もしくは行動することに非常に消極的である(現役世代の投票率の低さもそれを物語っている)。このように簡単に大人でも思考停止状態に陥っている世の中なのだから、それを自分の子供に押し付け、ただ社会に出ることを強要するのではまるで説得力がない。世の中にとって都合の悪い所は考えなくていい、でもお前は今の大人たちに混じって社会に出て働くだけ働いて搾取されろ、というのは筋が通ってないし残虐的行為に等しいとさえ言えるだろう。自分の身近に引きこもりがいて悩んでいる人は、まず自分がしっかりと物事を考え、解決していこうと努力するという手本を見せるべきだ。

 

 本書は、引きこもりやそれに準ずる子供を抱えた親のために、どうすればいいのか、ということをわかりやすく教えてくれている。しかし、どんな説得力のあるアドバイスも、まず解決しようとする人が行動に移さなければ絵に描いた餅だ。引きこもりの子をもつ親を責める気はないが、問題解決能力に乏しいのは、実はお互いさまだったりするのだ。その証拠に、そんな大人の背中を見て、子供達は歳を重ねてしまっているのだから。

 それに加えて大事なのは、今の世の中誰でも引きこもりになる恐れがあり、また自分の身近にもそうなる可能性が常に付きまとっていることである。その時、自分のため、家族のために問題解決能力を養っていく、という意味で、このような漫画を読んで知識を少しでも吸収しておくといいと思われる。それも出来れば、今のところ全く引きこもりという問題に直接的な関係のない人に、こそ。困ったことが起きてから重い腰を上げて考えるのでは遅いし、健康なうちに転ばぬ先の杖の選定を行っていきたいものだ。

 

 以上、どちらかと言うとこの漫画の書評というより社会問題に関する記事になってしまって恐縮だが、まあ今更か(僕のブログの場合)。ただこの本も、せっかく引きこもりに陥ってしまう例やその対策、ノウハウをしっかり噛み砕いて描いてるのだから、それこそもっと根本的な問題に触れてほしい、とも思った。例えば当事者が引きこもりになってしまった大元は、根が深い精神病や生まれつきの障害などが原因の場合もある、など。そういう場合は一般論は通用しないし、多くの場合病院や施設の世話になるだろう。なので、本書においてそれらに関するインフォメーションも充実させていれば、と思うと、少々残念な気がしないでもない。