くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

人生の不安定×やりがいのない仕事=絶望【自動車絶望工場】

 

新装増補版 自動車絶望工場 (講談社文庫)

新装増補版 自動車絶望工場 (講談社文庫)

 

  

 わざわざこんなタイトルの本を取り上げる、ということは。

 そうです。僕もトヨタいすゞ、日産といった名だたる工場で期間従業員及び派遣社員をやったことがあります。

 

 はっきり言って待遇は鬼のようにひどかった。

 ライン作業は、タクトが何らかの異常で止まらない限り、“従業員は一秒も休む暇がない”、というのは、誇張でも何でもなくその通りである。少しでもラインを止めようものなら「10秒ライン止めると会社が100万円の損失を被る」というありがたい嫌味をネチネチと言われる。それでいて身体を壊したらバイバイ。正社員には休職制度、というものが設けられているが、非正規にはもちろんそんなものはない。自慢ではないが、僕が日産の工場で働いていたころ、他の工場から異動してきた正社員がいて、僕の8割程度のスピードの仕事しか出来ず、結果うつ病で休職した。しかしそれでも待遇や何割かの給料は保てたままだった。そして僕はと言えばーー東日本大震災直後くらいの時期だったかなーー暴力社員からのパワハラが原因で胃潰瘍で入院したら即お陀仏となった。もちろん労災などおりなかった。

 派遣切り、という言葉が問題になるまでもなく、派遣社員期間従業員としての工場勤務は、異常なくらい腐りきっている。労働基準法など表向きで守っているだけにすぎず、時の権力と癒着し、強権を発動し、もっとひどいのになると、「生産減ったから明日から来なくていい」とか 、派遣の契約満了で本人にまだ他の職場でやる気があるのに「自己都合退職扱い」、日々の重労働で身体を壊して退職しても同じ自己都合扱いになる可能性が高いという。この国の労働基準法のガバガバぶりは、何もブラック企業だけが証明しているわけではない。

 もうここまでくると、制度とか、待遇とか、そんなミクロな視点で語る事自体が的外れだと言えるだろう。大げさでも何でもなく、人権に対する侵害と思考停止だ。富める者はますます富み、貧しきものはますます貧しくなる。問題は、それを思考停止し、その上他人にそれを強制させながら当たり前のように機能させていることだ。

 マスコミは重要なスポンサーである大手自動車工場の闇など触れない。たまにそういう問題に触れるものが現れたとしても、安易な自己責任論を振りかざす人間は少なくない。だが、自分が生活していくために、少ないパイをとれなかった人間が非正規に流れ、ぼろ雑巾のように使い果たされ捨てられる。国に守られている大会社だけあって、まさに日本の現実を表しているようだ。

 

 僕も本当は、自分の読書感想ブログの中でこんな今更な社会問題を取り上げてクドクド書きたくない。それでも、僕たちは皆、「便利な生活の中には必ずその犠牲になっている者がいる」ということを考えるべきだと思う。「ダイヤモンドのコスト」と同じく、今の日本は当たり前のことを真正面から当たり前だと受け入れすぎているのではなかろうか。社会問題だけが問題なのではなく、一消費者もまた考えなくてはならない、人間として生きる上でのあり方を考え直すことが、誰にとっても必要と言えるだろう。

 会社や社会のために働く人生を悪いとは言わない。しかし非正規社員で身を粉にして働くことは、それに当てはまらない。何故なら使い捨てにされる立場に自らを置くことは、自分を大事に出来ていないからだ。それでは社会や他人のためも何もあったものではない。

 

 望んで派遣社員になっている人もいる? 職業に貴賤はない? 確かにそういう一面もあるだろう。しかし考えてみてほしい。小学校の時の卒業文集に「自動車工場の期間従業員になりたい」と本気で思いつつ書く子供はいない。そういうことだ。

 

 さて、そんな僕が、とある本を読むことによって、更に製造現場や業界の甘くない現実を知ることになる。それは次回のお話に。