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くまの書評ブログ【すべての書籍は血肉縁】

“血”となり“肉”となり、人々の“縁”となる読書の素晴らしさを、野獣目線で呟いていきます。

何故それをしてはいけない? 人間の恐怖心と押しつけがましさは無限大【日本人の禁忌】

 

 

 三が日も終わって、ハレからケに移る時期。

 この本、普段お参りをしない神様に挨拶にいくタイミングだからこそ読んでみた。というのは嘘で、単にタイトルが何となく中二心をくすぐられたから。だって何か、そういう覗いちゃいけない物を覗いてみることによって、その瞬間だけ、「この世界で自分だけが世の中の深淵に触れてしまった」と夢見ることが出来るから。うん、本当にその瞬間だけ。

 

 本書は、アダムとイブのリンゴの話から始まり、何故それをしてはならないのか? 我々の暮らしの中で何故このようなことが忌み嫌われているのか? という大きな視点から言い伝えや都市伝説レベルのミクロなものまで、日本人が抱いている禁忌、というのを取り上げている。

 そして、ここで本音をぶっちゃけると、この本の真ん中部分(1~4章ある内の2章と3章)は斜め読みで構わない。本当に、歴史の教科書を箇条書きしたような、読んでも「ああ、そう」くらいの感想しか抱かないから。日本史好きな人やその禁忌のルーツをもともと知っている人が読むと、味わい深かったりする点もあると思うが、残念ながら万人受けする内容ではない。例えていうなら、ちょうどこの時期に理系の私大受ける受験生が、英数理の勉強で忙しい中で、それらの科目の参考書をamazonで買ったら日本史の教科書が家に届いた、そんな気分にさせられるから。もう少し言うと、【日本人の禁忌】というタイトルなのに、ただその起源や伝承を無味乾燥につづられているだけであって、これを手に取るような人が望むものと書かれている内容との乖離が著しいからだ。それも中だるみ、というよりは、全編そんな感じなのだけれど。

 

 しかし捨て置けない部分もある。

 子どもの頃(正月などで親戚一同が集まる席などでは特に)、何かにつけて「そうしてはいけない」と注意された経験は、誰しもあると思う。それが、明らかに人に迷惑をかけるものならまだしも、正直怒られる意味がわからないような理屈を押し通された、なんて経験がおありの方もいらっしゃるのではないだろうか。

 例をあげると

「畳の縁を踏んではいけない」

「正月にケンカをしてはいけない」

 この他、普段の日常の上において、単なる迷信だと子供心にもわかるレベルの

「夜に爪を切ってはいけない」

「同じく夜に口笛を吹いてはいけない」

 など。

 

 さて、一体世の中の大人がどれほどそのルーツを知った上で言っているのか。そしてもっとおかしいのは、そう言った迷信や都市伝説の類のタブーを、この科学文明の時代に避けている人が多いこと多いこと。

 もう一度言うが、この本の編纂はまるで高校の教科書のように面白味が少ないし、著者の考察やそれぞれの禁忌のあり方などを弁証した部分もほぼ皆無なため、ただ読むだけでは面白味の薄いものとなっている。しかもこの時代、スマホを用いウィキペディアで検索すれば簡単にわかる知識ばかり。

 それでも、この本の価値は、そのような情報過多の時代においても“ただそうだから”という理由で愚直にそれを守り、子孫に押し付けていることの人間の滑稽さを学ぶための一助となる点にある。繰り返すが、この本に書かれてあるような、それらの禁忌や迷信が何故そう言われているのか、ということも知らないで、非生産的且つ非合理的な行動をする人間が何故後を絶たないのか、と考えさせられるのである。

 その理由は、この本のタイトルにも堂々と書かれているが、「恐れ」のためである。

 「結婚式は仏滅を避ける」という、仏滅に結婚したからと言ってカップルが不幸になるなどという根拠は全くないと断言できるはずなのに、今日日これを守る人は非常に多いし、世間の一般常識もそれを否定しないだろう。しかし我々は思う。もし、選ぼうと思えば大安の日に結婚式を選べたのに、あえて仏滅の日に選んだカップルがいたとすれば「変わってんな……」と。

 そしてその恐れはどこから来るのか、ということの答えは、神様や仏様の怒りに触れそうだから、という点である。この触れ“そう”というのがポイントで、神様を見たことないくせに、ではなく、見たことがないことからこそ感じる恐れから、このような禁忌に触れないでおこう、というスタンスを、我々現代人は貫こうとするのである。

 しかし、それで非科学的だからと言って、我々現代人は、少なくとも人前ではマナーを破るわけにはいかなくなっている。大勢との食事の時に茶碗に盛られている白米に箸をさしてはいけないし、先述した通り目上の人の宅へ訪問する時は、畳の縁を踏んではいけない。もちろんこの他にも非常に多くの「してはいけない」ことで、この世は溢れている。

 更に繰り返すが、明らかに誰かに迷惑をかけているならまだしも、単なる言い伝えでそれを恐れていて、自分が怖がるだけでは飽き足らず他人に押し付ける。人間とは不思議なものだ。

 そのような善悪論はまた後日述べるとして、とりあえずこの本が持つ役割や功績、読後感や得た知識による収穫を数行でまとめるとしよう。

 

 人間が感じる恐怖や倫理観、常識やマナーに縛られていると感じた時に、何故そういういわれがあるのか、ということを紐解くだけでも、あなたの生活の上で感じる不快感や息苦しさをほんの少しだけほぐしてくれる。何故なら禁忌というものは全て神様でなく人間が作ったものだし、それに縛られているのも人間であるということに過ぎない、と気づかせてくれるから。

 

 本書は中二心や知的好奇心を満足させるにはやや物足りないが、いちいち「これするな」「あれするな」と意味不明な内容でそう命令されて育った人にとっては、書かれているような知識を得ることによって多少溜飲が下がるだろう。加えて、そういうふうに押し付けるオトナ達に限って、この本に書かれてある知識すら知らずに圧力をかけているだけに過ぎない、というケースは、今も昔も多いまま。